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死骸ブログ

【読んだ本メモ】高橋源一郎『文学王』

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"本を紹介する本"をできる限り読まないようにするぞとこころに固く誓っており、なんとなれば、紹介されている本がどんどんほしくなってしまうからというだけの理由なのだけど。むかしひところ谷崎潤一郎の作を祖とする「文章読本」系をいろいろ見つけては読んでいたが、関連本がどんどんほしくなってきますからね。読むのをやめることにした。丸谷才一の文学系エッセイとかも危険ですよ。おもしれえもん、無限に新たな本を読みたくなり買ってしまう。そんな反省から、"本を紹介する本"を読むことはフォビドゥンとした。


のだが、そんな固い固い"禁"を破って先日うっかり入った古本屋でうっかり見つけてうっかり買ってうっかり読んじゃった高橋源一郎の『文学王』はたいへん面白かった。

ライトな文学評論集でソソッと読めるのだけど、文章の書きっぷりが軽妙洒脱で、堅苦しいメージ時代の近代文学なんかも軽く手を出しちゃおうかなって気分になる。

藤井貞和の「書かれなった『清貧譚』試論のために」という詩がひときわ気に入った。これはフィクションです、と前置きしたうえで、津島佑子(太宰治の娘で作家ね)と旅行したときに太宰の作品で何が好きかときかれ『清貧譚』だと答え彼女は涙を流した、というような内容。太宰の思い出がたりとともにふたりの関係性がほのめかされるという構造がとても上手い。あと僕が好きな『右大臣実朝』のタイトルも詩の中に出てきて嬉しくなった。

この詩はすごい良いんだけど、肝心の太宰治の『清貧譚』はどんな話だったかいな、と思って青空文庫を開いてみれば、そうだ読んだことあるぞこれは、趣味で菊を生けている貧乏な男が姉弟に出会う話だ。貧乏男の意地を張るところが笑える。元ネタが収録されている『聊斎志異』は中国の清代の短編小説集で、日本には江戸時代に伝わってそのころから翻案作品がつくられたそうな。

 

もう一冊『文学王』の中で書かれていてこれは間違いなく面白いなと思ったのが、ジュリアン・バーンズの『10 1/2章で書かれた世界の歴史』という小説。世界史をベースにしてすっげー奇想天外な話が繰り広げるような内容だそうだ。第1話が、ノアの方舟の"密航者"が神とノアの悪口言いまくる、ようならしい。これだけで欲しくなり、探すのも億劫そうなのでAmazonでやっちゃいました。マジでAmazonがなければ世の中もうちょい平和だよ。Amazonじゃなくてインターネットがなければ、だ。

 

こんな具合で面白そうな作品をどんどん見つけてきたばかりにワンケー6.5畳の部屋には本が貯まっていく一方なんですけど、つい昨日、部屋の一角で200冊ばかり天高く積み上げており「バベルの塔エリア」と名付けていたところが、神の憎みを蒙り物理法則に従って上から下まですべて崩れ落ちてきました。「あぁ…」とだけ声が出たよ。地震が来たらここ以外も全て壊滅するんだろうね。うちには本棚がないんだ。やれやれ。

そんな災厄に見舞われたとはいえ、古代エジプトではナイル川が氾濫するたびに水の引いたあと肥沃な土地をもたらし稔(もの)りが豊かになっていたそうですし、崩れ落ちた本の下からとうの昔に買ったまま読めていなかった本を発掘して「あ!これ読もう!」って新鮮な気持ちになれるのかもしれません。こういう良い効果も1%くらいの割合で含まれているものと考えられますね。ポジティヴにいこうや。