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死骸ブログ

【読んだ本メモ】村上龍『希望の国のエクソダス』(文春文庫)

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国としての未来への先行きが不安な日本で、ある事件をきっかけとして突如全国の中学生が集団不登校になる、という話。中学生たちは大人の思いもよらない手段で自分たちなりのベストな社会を作り出していく。取り残された大人たちの視点で読むと、荒唐無稽な作り話だと簡単には笑い飛ばせない。世代間の感覚のズレの描き方が見事で物語の運び方も上手くって、この先どうなるのかのワクワク感が常に高く、どんどん先を読みたくなる。
20年弱前の2000年ごろという時代設定だけど、いま読んでも刺さるところがたくさんあると思う。教育、独立、危機感、希望、生きることへの危機意識、などなど、いろいろな語り口のできるキーワードが散りばめられているので、読書会をしても盛り上がりそう。新しい技術を容易に受け入れる子供たちと、受け入れられず戸惑いいらだつ大人たちの対比が極端に描かれる。子供たち側の感覚も大人側の感覚も、どちらも理解できて感情移入できる。

村上龍の文体、好きなんだよ。「退廃した風景街並み社会の描写と、登場人物の会話のテンポがよいですね。他の作品だとたまに気持ち悪い描写もあって、それが苦手な人も多いとは思うけど。

 

村上龍は「13歳のハローワーク」のなかで、小説家はあらゆる職業のなかで最後に選ぶべきものだ、というようなことを書いていたと思うが、僕はこれを文字通り受け取るべきだとは思っていない。という自説を補強する描写がチラッと出てきたが、これは語るのこっぱずかしいので、あんまりちゃんと書かないでおこう。